羽田空港着陸進入 実は30パターン以上もあった! ANA操縦士に聞く職人技あれこれ

羽田空港着陸進入 実は30パターン以上もあった! ANA操縦士に聞く職人技あれこれ

羽田空港では6方向からの進入に絞られるが…

日本の空の玄関口である羽田空港は、民間機用の空港としては最多となる4本の滑走路をもちます。そして巨大さゆえ、さまざまな着陸進入の方法が用意されています。

旅客機のパイロットは、多くのケースで、目指す滑走路の至近距離まで事前に定められたコースや高度で飛ぶ「計器進入方式」を用います。このことで「着陸前の数分間を安全・かつ正確に飛行する」ことができる、というのが、ANA(全日空)のパイロットの弁。

羽田空港着陸進入 実は30パターン以上もあった! ANA操縦士に聞く職人技あれこれ
羽田空港のANA機(乗りものニュース編集部撮影)。

そして、この「計器進入方式」にはいくつかの種類があります。それが設定される滑走路は多くの場合、必ずしも“一方通行”ではなく、風向きなどの要因によって飛行機が進入する方向が変わります。そしてその方向それぞれに、異なった進入方式が、いくつか設定されていることが一般的です。つまり、着陸進入には滑走路、そして着陸方向ごとに、それぞれ異なったルールや着陸アシストシステムがいくつも定められているといえるでしょう。

そうなると羽田空港のように多くの滑走路を持つ空港の場合、そのパターンは膨大です。前出のANAパイロットによると「羽田空港の4本の滑走路には現在、30パターン以上の計器進入方式が設定されています」とのこと。このバリエーションには、どのようなものがあるのでしょうか。

羽田空港には4本の滑走路、つまり物理的には、8つの着陸方向が考えられますが、現在のところ着陸に使用できるのは6方向に限られるといいます。

  • 34L(第1と第3ターミナルに挟まれた、「A滑走路」の南側)
  • 34R(第2ターミナル前の「C滑走路」南側)
  • 22(A滑走路北側と斜めに交差する「B滑走路」の北東側)
  • 23(空港の離れの沖合に作られた「D滑走路」の北東側)
  • 16L(C滑走路の北側)
  • 16R(A滑走路の北側)

もちろん、これら6つの方向ごとに、進入方式が定められています。

羽田空港で実施される進入方式いろいろ

ANAのパイロットによると、羽田空港で実施されている計器進入方式の一例は、次のようなものがあるといいます。

ILSアプローチ

滑走路から縦方向と横方向の電波が射出されており、パイロットはそれらをガイドに滑走路までたどり着く。もっともスタンダードで、精度も高い。また、電波の精度(カテゴリー)も「I」「II」「III」の3段階あり、数字が大きいほど精密で、視界が悪くとも進入が可能。

LDAアプローチ

空港近く、ただしILSのように滑走路ではない場所から、横(左右)方向のみ電波が射出されており、それをガイドに空港へ近づき、最後に目視で滑走路に向かう。

VORアプローチ

ILSほど精度の高くない電波が横方向のみに射出されており、パイロットはそれに従いつつ、他の情報も考にしながら高度を下げていく。ただし、近年はGPSを用いた進入も増えており、実施機会は少ない。

RNAV/RNP/RNP-ARアプローチ

ともに空港周辺の電波施設ではなく、GPSの電波による位置情報を用いた進入方式。精度も高く飛行ルートの設定も柔軟で、地上で電波を出す施設の設置・維持管理の必要もないが、機体側に必要な装置や実施手順が、ほかの進入方式以上に細かい規定を要する。RNP ARアプローチについては現時点でANAではボーイング737と787、エアバスA320とA321の4機種のみが対応している。

ただ、たとえば同じ滑走路34RへのILSアプローチでも、昼間用と深夜・早朝用の2種類、またそれぞれにカテゴリーII/III があり、それぞれ途中の経路や高度、進入復行した場合に飛ぶ経路などが異なるそうです。

バラエティありすぎの着陸進入 滑走路ごとにどう使い分け?

羽田空港の着陸進入方法について、先出のANAのパイロットは次のように代表的な運用を紹介してくれました。

おもに冬に実施されることの多い、A、C滑走路に南側から進入するケース

「南北に伸びる2本の滑走路に南側から進入する34L、34R滑走路へは、基本的にILS アプローチで着陸します。また、第2ターミナル側の34R滑走路にはビジュアルアプローチ(視認進入。管制官がレーダー画面を見ながら空港の方向に飛行機を誘導し、そこからはパイロットの裁量で飛んで滑走路までたどり着く)にいくつかの特別な条件が付加された「チャーテッド・ビジュアルアプローチ」、第1ターミナル側の34L滑走路にはVORアプローチも設定されています」

羽田空港の滑走路配置(画像:国土地理院)。

おもに夏に実施されることの多いB、D滑走路の北東から進入するケース

「22、23滑走路はLDAアプローチが基本となります。ただしLDAアプローチは電波を射出する施設の位置や精度の関係上、気象条件がある程度良いことが求められることから、基準を下回る天候のときはILSアプローチになります。そのほか、沖合につくられた23滑走路は、RNP-ARアプローチも設定されています」

なお、2020年からは「羽田新ルート」として、A、C滑走路の北側、16L、16R滑走路に都心上空を経由して着陸する方式が、南風で午後の一部時間帯に限り、設定されています。

東京都心を縦断する「羽田新ルート」の運用も今や定着した感はありますが、16L、16R滑走路への進入のなかには、実施の機会がめったにない珍しいものも。

「23滑走路が深夜に週1回程度、点検のため閉鎖になる日があります。その日に南寄りの風が吹いていると、16L滑走路にVOR アプローチで近づいたのち、途中から周回するように進入する『サークリングアプローチ』という方法をとります。これは「VOR-A」という名称で呼ばれています。実施の機会も少ないということもあり、羽田空港では、もっとも高い技術が求められる進入方法かもしれません」

滑走路1本、しかもひとつの着陸進入方式をとっても、「ワンパターン」ではない状況に日夜対応していることが、パイロット、それをコントロールする航空管制官など、運航に携わるプロフェッショナルのスキルの高さが伺えるエピソードともいえるしょう。

羽田空港の北風時と南風時の運用。赤線が着陸ルート(画像:国土交通省の資料を加工)。
羽田空港の都心上空を通る「新ルート」。赤線が着陸ルート(画像:国土交通省の資料を加工)。
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参考文献

  • 乗りものニュース「羽田空港着陸進入 実は30パターン以上もあった! ANA操縦士に聞く職人技あれこれ」、(https://trafficnews.jp/post/107237 閲覧日:2021年10月24日)